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広島高等裁判所 昭和39年(く)32号 決定

少年 R・M(昭二三・一一・一五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、記録に編綴してある抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用することとし、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

一、法令の適用に誤があるとの主張について、

しかしながら、本件少年保護事件記録並びに少年調査票によつて認められる、調査審判の経過に徴すると、原決定書記載の窃盗の余罪三三件は、本件保護処分の対象としての罪となる事実ではなく、少年の素質、性格、交友関係、環境等と共に、一つの行状を表わすものとして、調査の上決定書に記載されたものと認められるのである。ところで少年法第四六条にいわゆる「審判を経た事件とは」、保護処分の対象となつた犯罪事実、すなわち決定書に「罪となる事実」として摘示されている犯罪事実のみに限ると解するのが相当であるから、右犯罪事実の摘示は右法条等の関係からも、これを忽せになし得ないことまことに所論のとおりであるが、保護処分の対象としての罪となる事実ではなく、単なる行状の一部としての余罪を記載するが如き場合には、記録中これを認めるに足る資料の存する限り、必らずしもその余罪の内容を一々詳細に記載するの要はないものと考えられるのである。論旨は理由がない。

二、処分不当の主張について、

しかしながら、本件保護事件記録中の審判調書によると、少年は本件審判に際し、余罪三三件の窃盗を自白しているばかりでなく、当審の取寄にかかる広島家庭裁判所昭和三九年第一四七二号窃盗保護事件記録(審判不開始)等によると、右自白を裏付ける証拠も充分であり、またその共犯者相互の関係も対等であつて、少年が特に従属的な地位で行動していたとは認め難いのである。以上の事実の外原決定書記載のような少年の素質、性格、交友関係、環境などを綜合すると、少年を初等少年院に送致した原決定は相当とすべく、もとより著しく不当な処分とはいえない。論旨は理由がない。

よつて少年法第三三条第一項後段、少年審判規則第五〇条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 村木友市 判事 幸田輝治 判事 藤原吉備彦)

参考二

抗告申立書

少年R・M

右の者に対する広島家庭裁判所昭和三九年少第一二八九号窃盗保護事件について、昭和三九年七月二三日言渡された少年を初等少年院に送致するとの決定は左記理由により御取消しの上事件を原裁判所に差戻し又は他の裁判所に移送する旨の御決定相成り度く抗告を申立てます。

第一、原決定は、その理由中に余罪(未送致)として他に昭和三八年九月二二日頃より、昭和三九年六月二二日までの間に本件共犯者等と共になした窃盗三三件があると示しているのであるが、罪を犯した少年に対し、少年院に送致する旨の決定がなされたときは、審判を経た事件について刑事訴追又は家庭裁判所の審判に付することのできないことは、少年法第四六条の定めるところであつて、一事不再理の効力を有するものであるから、決定に罪となるべき事実として掲げられない情状事実としての犯罪と雖も、それが保護処分の決定の理由となつている以上その犯罪事実につき、犯行の日時、場所、被害物件、被害者等具体的に明示すべきである。右三三件の窃盗が如何なるものであるかは、決定に影響を及ぼすものであるから、原決定が単に三三件の窃盗事件があるとのみ記載したのは法令に違反するものである。

第二、原決定の処分は次の理由により著しく不当である。

(イ) 原決定に示された余罪の窃盗三三件については十分なる証拠によつて事実を認定せられたか疑わしい。

(ロ) 本件は、少年が友人の誘惑によつて追従的衝動的に犯した罪であつて、犯罪性は浅く、少年はよく反省し悔悟しているもので再び非行に走る虞はない。

(ハ) 非行の原因は交友関係にあるのであるから、保護観察官と保護司の協力によつて保護教育環境の調整が行なわれ、少年の家庭において十分監督せられるときは少年の更生は期待できるのであるから、決定をもつて保護観察所の保護観察に付せられるのが最も適当である。

(ニ) 少年の家庭は実父母と実兄二人と少年の五人暮しであつて、兄二人は○○中学を卒業して正業に就き、真面目に働いているものであるから保護者に保護能力があることは十分認められる。

(ホ) 住居は狭隘というほどではなく四囲の住宅環境も不良ではない。

(ヘ) 少年はその家庭より通学して△△中学を卒業し、その後広島市△△町○田鉄工所に雇われ旋盤工として通勤していたもので、家庭に対する所属感が乏しいとは謂われない。何等両親や兄に対する反感もなく、家庭より遠ざかつていた事実はないのであつて、本年六月十一日頃から一時帰宅しなかつたのは友人Aの誘惑により非行に転落したためである。

(ト) 少年は参考人(雇主)○田○甫の原審における陳述によるも、職場にあるときは勤勉であり、忍耐心や持続性も弱いとは思われないのであつて、雇主も少年の更生を念願しているのである。

(チ) 少年は未だ一五歳で別段性格的に欠陥もなく、濃度の不良性を有するものでもないのであるから、肉親の愛情に満ちた家庭生活の中に育成せられることこそ最も望まれるところである。少年院に送致し、非開放的収容処分により社会復帰を目的とする矯正教育を施されることが、少年に対する適切なる処遇とは考えられない。

昭和三九年八月五目

広島市○○○町○丁目○○○番地

少年R・Mの法定代理人父 R・T

同所

少年R・Mの法定代理人母 R・N

広島市八丁堀一〇四番地

少年R・Mの附添人弁護土 森山喜六

広島高等裁判所 御中

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